「アメリカにおける医療マリファナに関する最新情報」
麦谷尊雄

 1998年11月3日、アメリカの中間選挙でマリファナの医療使用を認める法案がアラスカ、アリゾナ、ネバダ、オレゴン、ワシントンの各州で可決された(アリゾナ州については再認、詳細については後述)。1996年の選挙で使用が認められているカリフォルニア州を含め、6つの州でマリファナの医療使用が認められたことになる。マリファナの医療使用を巡るこれまでの経緯、各州で提案されている内容と結果について以下に報告する。

1. これまでの経緯 アメリカにおける医療マリファナの使用については、1996年11月にカリフォルニア州とアリゾナ州において、住民発案(一定数の有権者が立方に関する提案を行い、選挙民や議会の投票に付する制度)による住民投票により可決され、大きな進展を遂げた。
 カリフォルニア州の提案205は、医師がエイズやがんなどに対してマリファナの使用が有効であると認めた場合、患者とその看護人はマリファナの所持と栽培は起訴や刑罰の対象とならないことを保証するというものであり、56%の賛成票を得て合法化された。
カリフォルニでは、それ以前にも二回にわたって同様の法案が州議会で可決されているが、当時の州知事ピート・ウィルソンが拒否権を行使したため、法律化されるには至らなかった。
しかし、住民投票によって可決されたものについては、州知事は拒否権を持たないため、そのまま法律として制定された。
 一方、アリゾナ州の提案200は、二人の医師が認めれば、マリファナに限らず、ヘロインやLSDといった薬物も処方できるというものであり、65%という高い賛成を得て可決された。しかし、その後、州議会は連邦法で認められない限り、医師がマリファナをはじめとするスケジュール。に分類された薬物を処方することはできないとする法案を通過させた。今回の住民投票では、この議会の決定を認めるか否かが問われた。

2. 法案の内容
今回の住民投票で提案された各州の法案の内容は以下の表の通りである。
文書による医師の承認の必要性
適用される症状
所持の限度
患者の登録
看護人の数
非営利のマリファナ供給組織
法律または憲法の修正
アラスカ州
必要
AMRモデル*1
AMR限度*2
必要
1人認めない
法律


アリゾナ州
2名の医師の承認と科学的な証明が必要
「衰弱性の病気」または「重病または末期症」患者
「医師の処方に準ずる受領、所持、使用」は合法
不要
不定
認めない法律
コロラド州
必要
AMRモデル
2オンス、栽培は6本(うち開花は3本まで)
必要
1人
認めない
憲法

ワシントンDC
文書または口頭での承認が必要
HIV/エイズ、緑内障、筋痙攣、がん、「そのほかの重病または慢性疾患」
病気の治療に「十分な量」
不要
4人
認める
法律

ネバダ州
「医師の診断」が必要、詳細は議会にて決定
AMRモデル
議会にて決定必要議会にて決定
可能、運用については議会にて決定
憲法

オレゴン州
必要
AMRモデル
AMR限度
必要
1人
認めない
法律

ワシントン州
必要
AMRモデル
60日分
不要
1人
認めない
法律

AMRモデル*1 − がん、HIV/エイズ、緑内障、悪液質、発作(てんかん)、痙性麻痺(多発性硬化症)、劇痛、ひどい吐き気 AMR限度 *2 − マリファナの所持1オンス(28.35 g)と栽培6本(うち開花は3本) いずれの州も医師がマリファナの使用が治療に有益であると認めた場合に限り、患者と看護人に対してマリファナの所持と栽培を認めている。
対象となる疾患については、がん、HIV/エイズなどの具体的な病名を挙げている州もあれば、「重病」や「慢性疾患」など医師に判断を委ねている州もあり、対応はまちまちである。
また、州によっては医療マリファナの使用を認められた患者を登録するシステムが提案されているが、これは患者を制限するというよりは、患者が逮捕された場合に使用の是非を証明して保護するためという意味合いが強い。 
幾つかの州では所持または栽培できる量の上限が規定されているが、それよりも多くの量が治療に必要となった場合、それを証明できれば、法的な弁護が与えられる。ワシントン州とではワシントンDCでは具体的な量を規定せずに、それぞれ60日分、「十分な量」という表現になっている。
 ワシントンDCでは非営利の医療マリファナ供給組織の設置を認めている。
ネバダ州は議会に判断を任せているが、それ以外の州では認められない。医療マリファナ供給組織が認められない州では、患者や看護人は自家栽培またはブラックマーケットが供給源となる。 また、コロラド州とネバダ州は憲法の修正となるが、そのほかは法律の修正となる。

3. 各州の状況と結果 次に、投票に至るまでの各州の状況と結果について説明する。

3.1 アラスカ州 AMR(Alaskans for Medical Rights:医療マリファナを求めるアラスカ住民)が中心となり、アラスカ州での医療マリファナを認める選挙法案8の住民投票に至った。 当初、選挙法案 8は67%という高い支持率を得て、順調に進んでいたが、選挙の直前になってATOMIC(Alaskans for the Truth on the Marijuana Initiative:マリファナ法案の真実を訴えるアラスカ住民)と名乗る団体や共和党上院議院フランク・マーコスキーの強い抵抗にあった。特にマーコスキーは、自らの再選を求める選挙広告の内容を変更してまで反医療マリファナを訴えるほどの徹底ぶりだった。 こうした反対キャンペーンにより、支持率は若干下がったものの、最終的には賛成59%、反対41%で可決された。
3.2 アリゾナ州 アリゾナ州は、アメリカでも最も保守的な州のひとつであり、1996年にマリファナを含むスケジュール1に分類された薬物の医療使用を認める提案200が可決したことは驚きであった。しかし、法案200が可決した後、州議会はそれを骨抜きにする法律を立法化した。この法律では、連邦法で認められない限り、医師がマリファナをはじめとするスケジュール。に分類された薬物を処方することはできないとしている。 これに対して、アリゾナの「人民の声(The People Have Spoken)」と呼ばれる団体が中心となり、20万を超える署名を集め、この「有権者の権限を侵害する非民主的な法律」の是非を問う提案300が住民投票にかけられることになった。 住民投票の結果、賛成43%、反対57%で否決された。これによって、2年前の提案200が有効となり、連邦法での規制に関わらず、アリゾナ州での医療マリファナの使用がようやく認められることになった。また、今後も議会による妨害を避けるために、住民投票により可決された法律を変えるには3/4の賛成を必要とする法案も可決された。

3.3 コロラド州 コロラド州では医療マリファナの使用を認める議案19の有効性を巡り、二転三転した。 医療の自由権を求めるCMR(Coloradans for Medical Rights:コロラド住民団体)は7月7日に住民発案に必要な54,242を超える88,815の署名を提出した。8月6日に州務長官ビッキー・バックリーは無作為抽出法を用いて、47,960が有効であるという判断を下した。CMRはバックリーの抽出法に不備があることを発見した訴えを起こし、9月5日にデンバー地方裁判所判事は抽出法のミスを認め、署名の確認なしに議案を投票用紙に加える判決を下した。これに対して、バックリーは州最高裁判所に上訴し、10月5日に署名の確認を行うことが認められた。10月17日、バックリーは有効署名数は51,904であり、必要数に達していないと発表した。 この結果、州裁判所は投票日の数日前に医療マリファナに関する法案を削除する判決を下した。しかし、既に投票用紙には印刷されており、多くの有権者はこれに投票した。非公式に59%が賛成したという情報が伝えられているが、一部の郡では投票結果が公開されておらず、公式結果は出ていない。 現在、コロラド州では法案の取り下げを巡り、訴えが進行中である。もし、取り下げが不当であると認められた場合、2000年の選挙で自動的に住民投票にかけられることになる。

3.4 ワシントンDC  ホワイトハウスの膝元であるワシントンDCで連邦政府の意志に反する法案を通す訳にはいかないという意識が議員の間に根強くあり、マリファナの医療使用を認める法案59に対する妨害が相次いだ。 まず最初に署名の有効数を巡り、混乱があった。7月6日に必要数16,997に対して有権者の署名32,000が選挙管理委員会に提出された。選挙委員会はこのうち4,600を無効とし、8月5日に17,092では「統計的に不十分」であるとの判断を下した。法案59の支持団体は最高裁判所に訴えを起こし、9月2日に必要数を満たしていることを認め、11月の投票にかけられることが認められた。 すると、次に、ジョージア州の共和党下院議員ボブ・バーらよってマリファナの刑罰を軽減する法案に対して特別区の予算を使ってはならないという内容の修正条項案が歳出予算委員会に提出され、投票日の直前に施行された。 既に投票用紙には法案59が印刷されており、集計用のコンピュータも全ての結果を数えるようにプログラムされているため、投票結果は数えられるが、公表されないことになった。出口調査によると、有権者の69%が賛成票を投じたと報じられている。 米市民的自由連盟(ACLU) は、バー修正条項が憲法修正第1条(議会が宗教・言論・集会・請願などの自由に干渉することを禁じた条項)に反するという訴訟に加え、情報の自由法(政府情報の原則的公開を定める法律)に基づく投票結果の開示を要求する訴えを起こしている。

3.5 ネバダ州 ネバダ州では、当初、一部の郡で署名の数が必要数に満たないと判断されたが、8月3日に計上ミスが認められ、無事11月の住民投票にかけられることが確認された。 住民投票の結果、賛成58%、反対41%で可決された。憲法に対する修正案とであるため、2000年の選挙で再確認のための投票が行われる。

3.6 オレゴン州 オレゴン州では、医療マリファナを認める法案67に加え、1997年に議会が決定した1オンス以下の所持を再犯罪化する法案を受け入れるかどうかを問う法案57が住民投票にかけられた。 オレゴン州は、1973年にアメリカで最初にマリファナを非犯罪化(罰金刑)とした州である。1997年10月3日、90,000を超える署名が州務長官に提出された。最高で30日間の投獄、1,000ドルの罰金、運転免許書の取り消しが認められる。 住民投票の結果、法案67は賛成54%、反対46%で可決され、法案57は66%の反対により否決された。

3.7 ワシントン州 ワシントン州では、1996年にアリゾナ州で認められた提案200をモデルとした住民発案による提案I-685が1997年に選挙にかけられたが、60%の反対により、否決されている。この法案ではマリファナだけではなく、科学的な研究結果と医師の推奨があればLSDやヘロインの使用も認めるというものであった。I-685は否決されたが、反対票を投じた46%がマリファナの医療使用を支持するという結果が出ており、これを受けてマリファナに限定したI-692が提案された。 住民投票の結果、提案I-692は賛成59%、反対41%で可決された。

3.8 カリフォルニア州 カリフォルニア州では、今回医療マリファナに関する投票はなかったが、1996年の提案205を巡り激しく対立した二人の人物が知事選に出馬したことで注目を集めた。 全米で最初のカナビス・バイヤーズ・クラブをサンフランシスコで設立したデニス・ペロンは、提案205の支持団体の中心人物として住民発案に必要な署名を集めた。既にマリファナ関連で二度逮捕されており、次に逮捕されると三振法が適用され、無条件に終身刑に課せられる身の上だが、それに臆することなく医療マリファナ運動を推進している。 一方の州司法長官ダン・ラングレンは、1996年の住民投票においては、提案215に反対する団体を組織するとともに、サンフランシスコ・カナビス・バイヤーズ・クラブに対して強制捜査を行うなど、ペロンと真っ向から対立した。 ペロンは6月に行われた共和党の候補者選挙で得票率3.4%(地元サンフランシスコでは25%)で敗れた。しかし、ほかの候補者が選挙資金を900万ドルから4000万ドルを費やしたのに対して、ペロンの選挙資金は僅か1万ドルだった。得票数一票あたりにかかった金額を比べると、ほかの候補者は5ドルから59ドルだが、ペロンは15セントと 郡を抜いて少なく、ペロン自身もこの結果に満足しているようだ。 ラングレンは93.4%という高い支持率を得て共和党の候補者に選出された。11月の選挙では、膨大な宣伝費が費やされ、民主党のグレイ・デービス州副知事との間で非難、中傷合戦が繰り広げられたが、デービス候補が終始リードを保ち当選した。民主党の候補者が州知事に当選したのは、実に16年ぶりのことである。少なくとも反マリファナの第一人者であるラングレンが選出されなかったことは、医療マリファナに関してカリフォルニア住民の選択には矛盾がないことを示したと言えるのではないだろうか。


4. 今後の展望 1996年の住民投票で医療マリファナに関する法案が可決された際、アメリカ連邦政府は、連邦法では医療目的であれマリファナの使用は違法であり、マリファナを処方した医師からは免許を取り上げるといった発言をするなど脅しをかけている。1998年1月には米国司法省がカリフォルニア州の6つのバイヤーズ・クラブの閉鎖を求める民事訴訟を起こし、そのうちの3つが閉鎖された。さらに10月には米国地方裁判所判事チャールズ・ブレイヤーの命令により、オークランドのバイヤーズ・クラブが閉鎖されている。そして、今回も選挙前から政府機関などによる妨害行為が相次ぎ、コロラド州やワシントンDCに至っては投票結果が公認/公開されないという事態に陥っている。しかし、それにも関わらず、新たに4つの州で医療使用を認める法案が可決したということは、医療マリファナに関する国民の意志は既に確立したものであると言えるではないだろうか。 今後もほかの州で医療マリファナの是非を問う住民投票が行われることになるだろう。ただし、医療マリファナ運動が全国的に広まるにつれて、これまでの草の根的な要素が薄れ、政治家の公約や特定の利害を持つ団体の宣伝に利 用されるのではないかという懸念もある。現状では他に有効な手段がないため、住民投票による法の改正という手段を余儀無くされているが、本来、医療マリファナの使用は医学的な問題であり、政治的あるいは法的介入はナンセンスである。病気の治療にマリファナを使って良いか否かは医師の判断に委ねられるべきであり、政治家が作った法律などで規制すべき問題ではない。こうした基本的な権限の分担が認められない限り、薬物問題はなくならないだろう。 
 日本にもがん、エイズ、緑内障などに苦しんでいる患者は数多く存在する。こうした人々を救うために、日本でも市民運動などを通じて医療マリファナを合法化することはできるだろうか? 1990年に行われた米国臨床腫瘍学会の会員を対象としたハーバード大学の調査では、回答者の約半数が、合法であれば患者にマリファナを処方すると答えている。こうした医療関係者側の受け入れ体制が整っていることも、医療マリファナ運動が有権者の理解を得ている理由のひとつだろう。残念ながら、日本ではマリファナの医療使用に関する知識を持っている医師はほとんどいない。たとえ、ある程度の知識を持っていたとしても、敢えて患者に勧めるような医師は皆無だろう。そういった意味では、アメリカと比べて日本は二歩も三歩も遅れている。マリファナに関する知識を持つ医師が増えるのを待つか、アメリカが連邦レベルで合法化されるという既成事実ができてからでなければ、日本で医療マリファナを合法化するのは難しいのではないだろうか。tai


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